縦割り保育ってなにが良いの?
最近特に増えてきた「縦割り保育」。近くの保育園に預けようと思ったら「縦割り保育」の園だった、なんていうこともあるかもしれません。
そこで今回、「縦割り保育」について色々調べてみました。
何歳から?
調べた中でも最も多かったのが3~5歳児の縦割り保育です。
これはこどもの一般的な発達過程に照らし合わせてのタイミングなのでしょう。現実的なところでは2歳児を入れると3歳児まで手が回らなくなってしまうという保育者側の事情もあります。
クラスの規模は?
札幌市についての調査では20以上30未満がもっとも多いようです。
これはこどもの発達や活動量以外に、後述する保育士の配置基準とも関係があるかも知れません。
保育士の割り当てはどうなるの?
計算上、保育士の数を少なくすることができます。
保育園の配置基準としては、
~1歳(未満) 3人に1人
1歳~3歳(未満) 6人に1人
3歳~4歳(未満) 20人に1人
4歳~ 30人に1人
ですので、単純な例ですと、4歳児クラスと5歳児クラスの人数を足して30人を超えない場合、いままでは2クラスに分けていたところ、縦割り1クラスに保育士1人で良くなるわけです。
ただ、「異年齢保育の実践と計画」(ひとなる書房)によれば、これは縦割り保育ではなく、合同保育としていますね。
合同保育とは、少子化により1クラスの人数が少なくなった場合にクラスをまとめて保育するという「消極的な」異年齢児保育を指します。
尚、縦割り保育の保育士配置について具体的な規準や指針のようなものは見当たりませんでした。
朝から晩まで、ずっと一緒なの?
園によって様々です。毎日のカリキュラムの中で同じ活動をするところもあれば、年中行事に限っているところもあります。
メリットは?
・自己肯定感
横並びでの比較がなくなるので、出来ない事への焦りやイライラを感じることが少なくなるうえに、出来て当たり前(良くない言葉ですが)な事をしても下の年齢の子からは尊敬のまなざしを受けることができます。
さらには年上から優しく世話をして貰うことで先生だけでなく周りからも受け入れられ、大切にされていると感じることによって、自己肯定感も育ちやすい環境になります。
・向社会性が育つ
これはおもに年長児に言えることですが、困っている人を思いやり、助けようとする人間性(心理学ではこれを「向社会性」と呼んだりします)を育てることが出来る環境になります。
・年長児をまねて見習うことができる
学ぶという言葉はまねぶからきていると言われますが、じぶんより少し上のこどもがやっていることを真似することで、横割り保育では得られない高い「目標」を持って自律的に活動できるようになります。
・多様な他者にたいする受容性や信頼関係も含む。
いろんな年齢のこどもと活動をともにする中で、自分とちがった人に対して受容する心を育むことができます。
デメリットは?
・年長児ががまんを強いられがち
年少児とトラブルになったとき、問題の理解力の高さからどうしてもがまんしたり譲ったりしなければならない場面が多くなってしまいます。
・力の強弱が人間関係に反映されてしまう可能性
上とは逆に、年長児の強引な振る舞いには、どうしても従わざるを得なくなり、結果として自由な活動の妨げになる可能性があります。
・発達段階の差に配慮した保育計画が立てづらい
一緒に活動する中で年齢別に課題を設定することが難しく、結果として年少児の能力に合わせた計画に偏ってしまう傾向があるようです。
・保育士の負担が大きい
前述のように横割り保育よりも保育士の配置が少なくなることが多く、異年齢児が一緒に過ごすのに快適な環境を用意する反面、各年齢の発達に応じた計画になったりと、保育士の経験や能力が相当に高くないと負担はかなり重くなると思います。
見学時に雰囲気が悪いのは要注意かも
縦割り保育はこどもの自立を促し、向社会性を伸ばすという点で素晴らしい保育形態だと思います。ある研究では人の心に思いを寄せ、理解するために必要な「心の理論」の発達を促す、という結果も出ており、とても優れた保育形態であるといえます。
しかし反面、クラス構成や保育士の能力にその実効性が大きく左右されてしまうため、場合によっては発達に負担をかける結果にもなりかねないのでは?というのが僕の率直な印象です。
現在では実践している園も増え、そこから得られたフィードバックをもとに縦割り保育もポピュラーになってきていますので過剰に心配する必要はないと思いますが、見学に行ったクラスがあまりに騒がしかったり、こどもに対して保育士の数が少ないようでしたら、率直に疑問や印象をぶつけてみてください。
参考資料:
・林若子ら(2010)「異年齢保育の実践と計画」(ひとなる書房)
・吉田 行男(2009)「札幌市及び周辺地域における異年齢保育の実態調査報告書」
・松永恵美ら(2008)「幼児の「心の理論」の発達に対するきょうだいおよび異年齢保育の影響」発達心理学研究 第 19 巻, 316 −327
・石川洋子(2016)「0~5歳児における異年齢児との人間関係の発達的変化—0~2歳児との関わりに焦点を当てて―」「教育学部紀要」文教大学教育学部 第 50 集