「育てにくい子」の作り方

f:id:takenokolab:20190920205904p:plain

機嫌が悪いことが多かったり、泣くとあやしてもなかなか泣き止まなかったり、言うことをまったくきかなかったりすると、「この子、将来どうなってしまうのだろう」と悲観的な考えにとらわれてしまいがちです。

しかし、そんなネガティブな思考こそが「育てにくい子」をつくっているとしたら?

 


そもそも「育てにくい子」って?

トマスとチェスという心理学者がいました。彼らは中・上流家庭の乳児136人を継続して調査し、こどもの気質の特性を9つの規準に分けます。

• 活動性:身体の動きの度合い。活発/不活発な時間の割合。

• 生物的機能における規則性:睡眠、空腹、排泄などの生物的機能の規則性

• 新しい刺激に対する接近・回避傾向:新しい状況や物事への最初の反応のしかた

• 順応性:新しい状況や物事への慣れやすさ。

• 反応の閾値反応を引き出すのに必要な刺激の度合い

• 機嫌:快・不快の感情表現の度合い

• 気の紛れやすさ:行動をやめたり変化させたりするのに必要な刺激の量

• 注意の幅と持続性:1つの活動の持続性と妨害があったときの執着度

 そしてこの9つの規準をもとに育てやすさという観点から、こどもの気質を「扱いやすい子(40%)」「扱いにくい子(10%)」「出だしの遅い子(15%)」「平均的な子(35%)」に分類したのです。

ちなみに「扱いにくい子」の内容は「生活が不規則」「慣れないことに対して拒否的」「順応性が低い」「不機嫌」としていて、これを一般的に「育てにくい子」と同義としています。

「育てにくい子」についての不安

トマス達は136人の追跡調査で、後の青年期に精神的問題を抱えるようになったのが「扱いやすい子 」18%、「扱いにくい子 」70%、「出だしの遅い子 」40%の割合であることが分かりました。この70%というのが割とショッキングな値なので、育てにくい子の話題では頻繁に引用されています。

「育てにくい子」だって環境さえ良ければ問題なし!

ここまででなんだか絶望的な気分にさせられた方も多いと思いますが、続きがあります。
その後トマスらは乳幼児達を追跡調査をし、両親や保育士の関わり方や文化的環境の違いなど、細かなところについても調べました。

そして「育てやすい子」の場合、母親は育児を楽だと感じることが多く自然と子どもへの応答も適切になることが多いのでこどもにとって環境が良くなり、「育てにくい子」の母親は育児を大変と感じやすく非受容的な態度になりがちで、結果としてこどもへの応答が適切に出来なくなってしまう場合が多いことが分かりました。まさに負のスパイラルです。

そして「育てにくい子」でも両親の受容的な態度と安定した家庭環境では特に問題なく発達できていたことを明らかにしたのです。
確かに最初の調査で「育てにくい子」でも30%は精神医学的になんの問題もなかった訳ですから、そこの違いこそが重要ですよね。


その後サメロフという研究者も「遺伝的に育てにくい子は、お母さんも育児に悩んだり不安を持ったり疲れたりしてしまって、結果的に「環境的要因」も悪くなってるだけでは?」と、母親側の要因を改善することの有効性を指摘しています。


現在では、生まれて以降の環境がその後の気質に大きく影響すると考えられています。乳幼児期にはそだてにくい気質が見えたとしても、「環境的要因」がプラスに働き、良い結果に繋がる可能性は十分にあるのです。


上の研究でも「扱いやすい子」ですら1/5近い確率で後に精神的問題を抱えていますし、数だけで見るなら

・「扱いやすい子」 136 x 0.4(40%) x 0.18(18%) = 9.792(人)

・「扱いにくい子」 136 x 0.1(10%) x 0.7(70%) = 9.52 (人)

と、136人中、おんなじぐらいの数かむしろ多いくらいです。このことからも、その後の環境が大切だと言うことが良く分かるのではないでしょうか。

環境はどうかえる?

気にしないことです。強く躾けてたって言うことを聞くようには絶対になりません。これは経験上断言できます。

 

それよりは、基本的にしっかりとした愛着関係を築き、適切に言葉がけをしていればそれで十分というか、結局のところこれが最善の環境です。

最近は「育てにくい子」についての書籍も多く出ていますが、やるべきこととして一様に挙げているのは、ほとんどこの2つです。

 

takenoko-lab.hatenablog.com

 

 

takenoko-lab.hatenablog.com

 

スキンシップを増やすことも有効と言われています。

 

 

takenoko-lab.hatenablog.com

 

 

※これは僕の完全な私見ですが、トマスとチェスが調査した1950〜60年代のアメリカでは、「抱っこしないあやさない」育児法が良いとされていました。また、元来、日本では欧米に比べて「おんぶ」や「添い寝」など母子の密着が多い子育てですから、日本調査したなら、もう少し良い結果が出たのでは、と思っています。

大人の勝手な期待は捨てる

ちょっとキツい言い方になりましたが、実はこれがこどもにとっても養育者にとっても事態を悪化させている大きな要因と言われています。

こどもに受容的な態度で望めない、強制的な態度を取ってしまう元凶は、こどもの気質と親の期待・要望とのすれ違いからくるものです。

変な話、親はみなドラゴンボールの悟空や悟飯のようなキャラクターを望みがちです。

でもベジータやトランクスだって魅力的でしょう?彼が悟空みたいになるように矯正されたら、そりゃ悪い方向に行きますよ。

こどもの気質を見極め、その上でどう育って欲しいかを考える方がこどもものびのび育ちますし、ひいては子育ての愉しみに繋がる気がするのは僕だけでしょうか。

お父さんも重要

そして重要なのが、お父さんの協力。難しい課題に立ち向かうお母さんを孤独にせず、親子3人で一緒に頑張っているんだという連体感を持てるようにしてください。

お父さんはこどもの社会性の発達を担っている、と言われています。「世の中のルールや価値観ってのはこうなんだぞ」と遊びややりとりの中で伝えることで、こどもの社会的な順応性を養うことに繋がります。育てにくい子の場合はより積極的な参加が期待されます。

みんな同じじゃ、つまらない

ここまで読まれて、結局「育てにくい子」って親がそう思うか思わないかじゃない?と思われた聡明な方もおられるでしょう。まさにその通りだと思います。そんなものだ、と思えれば別に心配もありませんし、悪循環も生まれません。

 

そもそも「扱いにくい」「育てやすい」なんて周りが決めたことです。こどもはただ毎日一生懸命生きてるだけです。

多少こどもの言動に手を焼いてもあまり心配し過ぎずに、その子にとって一番良い選択をしてあげられるよう、周りの人と一緒に考えていくのが良いと思います。

 

最後におすすめの絵本を一つ。

・「おこだでませんように」作:くすのき しげのり / 絵:石井 聖岳  小学館

 

おすすめ参考文献:

内田伸子 編「よくわかる乳幼児心理学」ミネルヴァ書房