こどもの視力について
さて、ここで問題です。
あのハンバーガー屋さんにいるお馴染みのキャラクター、ドナルド、ハンバーグラー、ビッグマックポリス、グリマス、バーディー。
この中で、生後1ヶ月の赤ちゃんに一番人気なのはどのキャラクターでしょう?
白黒ストライプ最強説
答えは、分かりません。分かりませんけど、多分、おそらく「ハンバーグラー」でしょう。
…え? 特に可愛くもなく、かといってそれほどコミカルでもない彼が!?と訝る向きもおありでしょう。ポイントは「白黒の縞」。
あかちゃんの眼そのものは、出生時すでに器官としてほぼ完成しています。
ただし、眼球を動かす筋力や視覚信号を処理する脳の方がいまだ未発達の状態。
そのため、ピントもぼやけ、色の識別もまだ未発達。視力は0.01程度といわれています。そんな状態なので普通に視力ははかれません。
そこで「選好注視法」という、そればっかり好んで見てるってことは見えてんじゃないの?という検査法で調べたところ、どうやら新生児には0.3cm幅の縞模様が見えていることが分かりました。
赤ちゃんは無地よりも縞模様により興味を抱いているわけです。ちなみに同じ実験で、赤ちゃんが人の顔を好んで見ることも明らかになっています。
色の区別はいつ頃から?
色の区別については、もう少し科学的な「視覚誘発電位による脳波測定」という方法で調べます。頭に電極を貼り付ける、アレです。脳の反応する部分を測定して、見えてる/見えてないを判別するわけです。
それによると出生後1週間くらいから無彩色、白や黒や灰色ですね、これについての反応が見られ、3ヶ月頃には安定します。
その後、生後2ヶ月で赤と緑の区別、4ヶ月で青と黄色の区別がつくようになります。
さあ、ここまでで何故「ハンバーグラー」なのか、合点がいったでしょう。
「縞模様」。それも「白黒」。赤ちゃんが好む模様で、しかも認識できる色なのです!実際、これを利用したおもちゃや絵本も多く販売されています。
ちなみに生後4ヶ月の赤ちゃんが好きな色ってなんでしょう?淡いピンク?優しい雰囲気のベージュ?
わかります。そう思った時期が僕にもありました。
ところがこれまた「選好注視法」を使った調査から、4ヶ月の赤ちゃんが好む色は一番が「青」、二番目が「赤」であることが分かったのです。
淡色ではありませんよ。濃い青と赤です。その他、オレンジや黄色、緑と、まさにディック・ブルーナの世界。
「赤」?そうです。新生児にはチヤホヤされた白黒ストライプなハンバーグラーも、4ヶ月になると打ち捨てられ、赤白ストライプ(&黄色ズボン)のドナルドにあっさりお株を奪われてしまうのです、多分。
ちなみにあかちゃんにとって淡色はあまり好きではない、あるいは見えてない可能性のある色だそうです。
とはいえ、脳は視覚刺激を受けながら発達します。
好きな色ばかり見せれば良いというわけではありません。たとえ明るさが変わっても同じ色だと認識するには、経験による訓練が必要ですし、大人と同じような色覚を持つには、12~14年かかると言われていますので、べージューのかいまきもピンクのロンパスもこどもの成長に十分寄与している、はず、たぶん、どう、でしょうか。
奥行きは?
実はこれ、とても複雑な問題です。
と言いますのも、単に「奥行き」と言っても、それを知覚する手がかりが、空間の知覚や両目の視差、陰影による凹凸や絵画的手がかり(遠近法など)と複数あり、それぞれの発達が奥行きの知覚に関係しているらしいのです。
このなかで両目の視差に関係する眼球の運動に関して言うと、4ヶ月には滑らかに動くようになり、6ヶ月では自分と物の空間的な位置を見ているようなのですが、それでも成人と同等になるには、10年以上かかるとも言われています。
視覚も様々な発達が重なって向上していく
成人と同等になるのに、10年以上かかるという点に驚かれた方も多いのではないでしょうか。僕も調べるまではもう少し早いと思っていました。
視覚は視神経や脳、筋力など様々な部分が発達することによって向上します。しかも年齢が上がれば発達すると言うだけでは無く、日常的な経験や環境の中で獲得される部分も多いのが特徴のようです。
そうでなくちゃ、いつまでたってもピンクスカートのバーディーは日の目を見ないことになっちゃいますからね。
まあ、ドナルド以外、最近は余り見かけませんが。
元気にしているんでしょうか。
今回の参考文献:
山口真美・金沢創(2016)「乳幼児心理学」放送大学教育振興会
会誌「光学」デジタルアーカイブ
https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/35-12-kobo.pdf
https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/36-06-kaisetsu1.pdf