愛着(アタッチメント)って何?

乳幼児期の子育てでなにが一番大切なのかと問われれば、保育士10人中12人が「愛着(アタッチメント)」と答えると思います。

それくらい重要な愛着関係ですが、どのようにして育めば良いのでしょうか?


実際はほとんどのお母さん(養育者)が日々の子育ての中で子どもとの間に普通に育んでいるものですので、特段何かしなければいけないわけでもありませんが、「ああ、あれって愛着につながっているんだ」と思って頂ければ子育てに自信が持てますし、それで充分な内容だと思いますので、気楽に読んでみてください。

 

そもそも愛着(アタッチメント)って何?

「人が特定の対象に抱く、信頼感や情緒的な絆」のことです。
平たく言うと、愛情に溢れた親子的な繋がり、ということになります。
親子(的)としたのは、現在では親でなくても愛着関係を築くことができることが分かってきたからです。

いつ頃から注目され始めたの?

終戦後のイタリア。施設に入所した多くの乳幼児に、歩行などの運動能力や言語・知能の遅れ、無感動な性格に高死亡率といった問題(施設病:ホスピタリズム)が発生します。
そこでWHOから調査依頼されたのがイギリスの心理学者ボウルビィでした。彼がその調査の中で施設病の原因が施設そのものではなく、「母性剥奪」にあることを発見し、これが後に愛着理論に繋がってゆきます。
その後アメリカの心理学者エインズワースなど多くの研究者が愛着について研究を進め、今ではどんな発達心理学の教科書にも必ず記載される程、その重要性について広く認識されています。

なぜ重要なの?

このように愛着理論が広く世間に知られるようになると、いろんな事の基礎に愛着が不可欠であることが分かってきました。

 

< 人間関係 >
赤ちゃんは、実は出生直後から様々なサインで愛着的なコミュニケーションを取ろうとしています。これに適切に応えてあげることで、次第に愛情と信頼が生まれます。


そして生後7ヶ月までには、2人だけにしか分からない、非言語的な「コミュニケーション・ルーティン」ができあがります(これが通じないことへの不安から「人見知り」になります)。このやりとりが土台となって、言葉が話せるようになると、今度は他の人ともコミュニケーションを取ることができるようになっていくのです。

 

< 自我の形成 >
また、外の環境へ関わっていくときにも、はじめは怖いものの、いざというときはお母さんが守ってくれるという安心感から、勇気を持っていろんなことに挑戦しようとするわけです(安全地帯、なんて呼び方もします)。

探索行動から自分と、自分をとりまく環境について認識したり、他人と触れあったりすることで、こどもの自我が育っていきます。これができないと「有能感」や「自己肯定感」の欠如に繋がってしまいます。

 

< こどもの「気質」>
さらにいうと、あかちゃんの「気質」にも大きな影響を与えます。
赤ちゃんは生まれながらにそれぞれの「気質」を持って生まれますが、たとえばその子がいわゆる「育てにくい子」であったとしても、愛着関係によって適切な方向へ導くことが出来ると言われています。

 

< 心の理論 >
「心の理論」の獲得との関係も指摘されています。

「心の理論」とは、簡単に言うと相手の立場や視点に立って考察する力のことです。
愛着関係が不安定なこどもでは「心の理論」の理解度をテストする「誤信念課題」の正解率が低いと言う実験結果が出ています。詳しい原因は未だ不明なのですが、愛着関係を築く中でお母さんがこどもを「心を持った存在」として対応することが、結果としてこどもが自他の心の存在を意識することに繋がっているのではないか、と考えられています。

 

その他にも、孤立した小屋に放置され心身の発達が著しく遅れた幼児が、施設に保護された後しばらくは回復が見られなかったものの、その後一人の保育士と愛着関係を気付くことにより、めざましい発達を遂げ、ほぼ心身ともに平均的な能力を獲得できた、という事例があるように、愛着は発達に必要不可欠な、唯一無二の「栄養」のようなものなのです。

 
どうすれば「愛着関係」を築けるの?

じつは赤ちゃんは、生まれたときから愛着行動をはじめています。

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生まれてすぐの赤ちゃんが泣いたり、微笑んだり、人をジッと見つめたりするのは、不特定多数に向けた愛着関係募集のシグナルです。視線や微笑みを返したり、「お腹空いたねえ」「眠たいの?」「うれしいね」など、あかちゃんの気持ちを汲みとるような声をかけたり、抱っこしてあやしたりすることが、愛着関係の最初の一歩となります。

特にお腹の中に居た頃から既にお母さんの声効いていますので、聴き慣れた優しい声で自分の気持ちを汲み取ってもらうことで、信頼感と安心感が育っていきます。

 

お風呂入れや授乳のときに身体が触れあうことも、重要な愛着行動です。
「乳幼児とスキンシップ」でも触れましたが、赤ちゃんとの肌の接触は母子ともに「愛情のホルモン」といわれる「オキシトシン」の分泌を促進し、信頼感や安心感を育むことが最近の研究で分かっています。

 

 

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さらに6ヶ月を過ぎると、声を上げたり、指差しをしたりと、いろいろな方法でシグナルを送ってきます。
これに敏感に感じ取り、声で返したり、モノを取ってあげたり、抱っこしたりと適切に応答して上げることで、言葉はまだなくても親密なコミュニケーションが取れるようになっていきます。この時期お母さんとする「いないいない、ばあ」「くすぐり遊び」などは、愛着の形成に非常に有効だと言われています。


また、特に大人が遊んで上げなくても、こどもが何かに夢中になっていることが有ると思います。そんなときはにそばで見守ってあげるだけでも、こどもは安心感を持って活動できます。途中こどもが視線を投げかけられたら、「じょうずにできたね」「ひとりでできてえらいね」と声をかけてあげてください。


まとめ

愛着無しにこどもは育ちません。


ですが、上に書いたように、愛情を持って子どもと関わっていれば、あかちゃんはちゃんとそれを受け取って、養育者に愛着をもってくれます。あまり過敏になりすぎずに、シグナルが読み取れたときには、適切に返してあげよう、くらいのメンタルで良いのではないかと思います。もちろん、スマホに気を取られてて見逃すとかはナシです。

 

おすすめ参考文献:

遠藤利彦他「乳幼児のこころー子育ち・子育ての発達心理学」有斐閣アルマ

内田伸子編「よくわかる乳幼児心理学」ミネルヴァ書房

廣島大三「6歳までのアタッチメント育児ーこどもを伸ばす愛情の表し方・与え方8つのメソッド」合同出版

山口創「こどもの「脳」は肌にある」光文社新書